キム・テクサン「時の色」


2006年9月2日 - 10月14日 タグチファインアート






































 キム・テクサンは1958年韓国ソウル市生まれ。1985年に中央大学美術学部を卒業し、1987年に弘益大学大学院美術研究科修士課程を修了。現在清州(チョンジュ)市在住。ソウルを中心に韓国内外で作品を発表しています。


モノクローム絵画の伝統

 韓国では1970年代から活発化したモノクローム絵画が、現代美術における主流のひとつとして、現在も重要な傾向を形成しています。1990年代に作品を発表し始めた世代には欧米での留学経験をもつ作家も多く、現在はモノクローム絵画も素材や技法において多様な展開を示しています。キム・テクサンは留学経験こそありませんが、こうした同世代の作家との交流を通し、韓国人作家としてのアイデンティティーを探るとともに自らの思想を深め、作品のオリジナリティーを確立すべく模索してきました。


自然の痕跡

 画家として捉えれば、キム・テクサンはカラリスト(色彩主義者)であると考えられます。しかし彼の作品をより深く理解しようとするならば、その制作プロセスを知る必要があります。
 キム・テクサンはその制作において、筆もペインティング・ナイフもパレットも使いません。「水で描く」と彼は微笑みますが、水と重力、自然に描かせると言ったほうが正確かもしれません。
 まず、彼は特別に用意した長方形のプールにキャンバスを浸し、アクリル絵の具を溶かした水を注ぎます。注がれた水はその痕跡をキャンバスに残しながらゆっくり蒸発していきます。季節や気候に応じて、水は様々に異なる模様を残します。この制作過程において、作家はただひたすら待つのみです。そして適当な時期を見はからって排水し、キャンバスを乾かします。この工程を何度も繰り返し、キャンバスに色の層を幾重にも重ねていくのです。


時間の絵画

 こうして制作されるキム・テクサンの作品は水の痕跡そのものであり、樹木の年輪と同様、時間の痕跡でもあります。彼がなすべきことは、時の流れが痕跡というかたちで自らを現わす環境を整えることに尽きます。


自然の色彩

 キム・テクサンにとって色彩を加えることは元来、時の流れ、季節あるいは自然をキャンバスの上に可視化するために必要とされる手段にしか過ぎません。透明な水だけではそれらを私たちの目に見えるかたちにすることができないからです。そしてそこで便宜的に使われる色彩は、自然界に存在する現象から選ばれています。夕日の赤色、水や空の青色、樹木の緑色、太陽の黄色などです。時間をかけてゆっくり制作される彼の作品は、時間を経ることで得られる成熟や熟成という感覚や観念を見る人に与えるような色彩、柔らかで優しい色彩に覆われています。



 昨年にはソウルの国立現代美術館に作品が収蔵されるなど、近年彼の作品に対する評価が高まってきました。現在、スイスとフランスを巡回する韓国現代美術を紹介するグループ展「シンプリー・ビューティフル」展に出品中であり、9月16日から始まる釜山ビエンナーレにおけるシー・アート・フェスティバルでは、その中心的なイベントとして、海雲台(ヘウンデ)のメインストリートをマリンブルーにペインティングするプロジェクトを担当するなど、大変精力的に活動しています。

 ソウルでは定期的に個展を開催していますが、これまで日本でまとまった形での作品発表の機会はなく、タグチファインアートにおける今回の個展がその初めての機会となります。




出品作品


1. 無題(2208時間) 90 x 90 cm

2. 無題(1200時間) 80 x 80 cm

3. 無題(8760時間)  各20 x 20 cm

4. 無題(1728時間) 70 x 70 cm

5. 無題(864時間) 70 x 70 cm

6. 無題(888時間) 70 x 70 cm

7. 無題(2976時間) 各60 x 60 cm(4点組)

8. 無題(1512時間)  90 x 90 cm

制作年:2006年、素材:水・アクリル・キャンバス