マグダレーナ・アバカノヴィッチ「共存:ドリーム・グルビー・コジオル」


2007年11月1日 - 12月22日 タグチファインアート






















共存

 人間の体を持つかのような動物の頭。動物の顔で武装したかのような人間の体。
 部分的に人間のようで、部分的に動物のような彼らは、体に知られていない顔と顔に知られていない体の想像上の共存を示している。
 両者に相互理解は無い。
 共通の言葉も、共通の身振りも無いーしかし、数えきれない同一の特徴がある。精神、感受性、直観がどちらにも存在する。ただし、それらは現実に対する異なる知覚に基づいている。
 動物は存在に関する決して系統的に示すことのできない知識をもつ。人間の知性は動物のこの知恵を理解することができない。

 私が9歳のとき戦争が起きました。私は戦争のなかで生きていけると思ったでしょうか?毎日どれだけの数の人々が殺されたか、彼らがどのように死んでいったかを知らされ、苦しめられました。
 ワルシャワの家で、ニューヨークの摩天楼に航空機が衝突していく様子をテレビで見ました。人々は絶望して走っていました。
 静寂は何処にあるのでしょうか。空は神に保護された場所ではないのでしょうか。

 1975年にロンドンのホワイトチャペルアートギャラリーで開かれた私の展覧会のオープニングで、私は著名な天体物理学の教授、スティーブン・ホーキング博士に会いました。彼の宇宙に関する発見に魅了され、質問を止めることができませんでした。
 宇宙のダイナミックなイメージが私の前に開かれました。それは大きさ、力、法則など私の想像をはるかに超え、人間のどんな言葉よりも恐ろしいものでした。
 天の川は、未知の場所から来て未知の場所へと向かう、激しく粗暴な彗星や流星の流れになったのです。私はその場所から逃げ出しました。
 私は私の経験の集積に過ぎません。私が関わった時間はあります。それは形か音に結晶するかもしれません。

 私は人々との最初の出会いに、友愛という夢を抱いていました。今は人々が生まれながらにして残酷さという本能を持っているかもしれないことを知っています。
 突然、私は私の想像の世界で考えました。私の彫像たちが頭や顔を持ちはじめたのです。それは人間の顔でもなく動物の顔でもない、体の上に、体の外に、体を着飾るように成長した仮面のような顔です。未だ生まれていない生き物が、2003年から2004年に誕生しました。

          マグダレーナ・アバカノヴィッチ 2007




 アバカノヴィッチは1930年ポーランド、ワルシャワ近郊のファレンティ生まれで現在ワルシャワ在住。ポーランドを代表する現代作家であるだけでなく、2005年度の国際彫刻センター主催の「ライフタイム・アチーブメント・アワード」を受賞するなど、今や世界で最も重要な彫刻家の一人とされています。
 彼女は1960年代にファイバーワークの旗手として注目され、1970年代に人体をモチーフにした群衆のインスタレーション作品でその地位を確固たるものにしました。以来今日にいたるまで絶えず新しい表現を試み、世界中の主要な美術館で個展を開催、多くのグループ展にも招かれています。また2006年11月にシカゴのグラント・パークに設置した106体の彫刻からなる「アゴラ」をはじめとして、近年数多くの野外彫刻を制作するなど、50年近いキャリアを経た現在も大変精力的に活動しています。



 今回の展示は、タグチファインアートでは3年ぶり2回目の個展となります。日本初公開となる、動物の頭部を持つ人体のシリーズー「共存 (Coexistence)」から、麻布による最も代表的な3作品を展示致します。3点とも作家の手元に長く置かれて手を加えられ続けていた作品で、世界で初めての発表となります。
 動物と人間の共存という比喩によって作家は、思想や価値観の異なる民族の共存は可能であり、それは芸術によってこそ達成される、というメッセージをなげかけているように思えます。





出品作品

1. 「ドリーム」2003-07
  黄麻布・樹脂 186 x 70 x 60 cm

2. 「グルビー」2003-07
  黄麻布・樹脂・鉄 175 x 80 x 85 cm

3. 「コジオル」2003-07
  黄麻布・樹脂・鉄 220 x 57 x 70 cm