西村盛雄 「ブロンズ彫刻」


2008年9月13日-10月18日 タグチファインアート
















































 西村盛雄は1960年東京都生まれ、1985年多摩美術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。国内で何度か作品を発表した後、1991年にドイツ政府給費留学生(DAAD)として渡独。1995年にデュッセルドルフ美術アカデミーで G. ユッカーによりマイスター・シューラーを取得しました。1998年から1年間、文化庁派遣芸術家在外研修員としてヨハネス・グーテンベルグ・マインツ大学造形芸術学部文化精神学科に在籍し、宗教と現代美術について研究。その後2年半同学科に講師として留まりました。2001年には "2001/2002年度クンスト・スタチオン・聖ペーター教会の芸術家" というタイトルを受け、以来ドイツを拠点に制作活動を続けています。


甘露の雨

 「甘露の雨」という作品シリーズは、蓮の葉をモチーフとする彫刻作品であり、彼の制作活動において最も中心的な仕事となっています。西欧文化のなかで暮らし、つねにみずからのアイデンティティーと向き合わざるをえない異邦人である西村にとって、身に浸み着いた仏教は強く意識せざるを得ない宗教であり、解脱や輪廻の象徴としての「蓮」、釈迦の誕生を祝うために龍王が天から降らせたという「甘露の雨」など、地球上に存在する様々な宗教のなかでも、仏教に関連する観念や事物をモチーフとするこの仕事が重要であるのは当然であるといえます。


黄砂

 「黄砂」と題された作品群は、仏教において重要な意味を持つ舎利容器・骨壺をモチーフとした、実際に容器として使用可能な多面体の彫刻作品です。
 うつわや壷には、内と外・あの世とこの世の繋がりといったイメージがある、と西村は言います。蓋を閉めるまでは、白日のもと明快でクリアーな空間である容器の内部は、その蓋を閉められた途端、外界から隔絶されたまったく別の未知の世界を生み出します。容器は2つの異なった世界、それらを隔て且つ繋ぐものの象徴であると考えられるのです。骨壺こそ、まさにこの世を去った私たちが、物理的な意味において、住まうことになるあの世でもあるのです。砂漠から飛散する黄色い砂ム黄砂、西村はそれをタイトルとし、仏教や文化の伝搬を象徴させています。


透明な観念の凝固物

 西村は、総ての物や空間に、質量と無関係に存在するエネルギーと、それら相互のあいだの呼応関係を常に意識するよう努めています。制作にあたっても、自らの手から生み出されるかたちの内に込める、あるいは潜んでいるエネルギーと、輪郭の外のエネルギーの相互浸透を確認しながら作業を進めます。
 以下は西村自身のことばです。「生きている葉を写し取る、あるいは再製するという意識はない。蓮の葉をモチーフに制作しているのは、私に輪廻や宇宙などの形而上学的な存在をイメージさせるものがあり、それを直接的にかたちにしている。つまり蓮の葉に似た私の観念の透明な凝固物なのです。」


宗教全般への関心

 西村の関心は仏教だけにとどまるものではありません。これまでにも、マインツの教会内でのグループ展では、木と毛皮で神様のためのベッドを制作したり、モーリシャスでのグループ展で、ヒンズー教の寺院を模した作品をセメントで制作するなどしています。これらは世界中で繰り広げられている人間の営みとしての宗教をヒントに、人間と自然、世界との関係を探っていこうとするものです。


ブロンズ鋳造

 ドイツでは定期的に発表を続けていますが、今回の展示は、日本では2005年の神奈川県立近代美術館における「今日の作家」展、タグチファインアートでの個展「億劫」以来、3年振りの新作展示となります。近年精力的に制作しているブロンズ鋳造の作品が日本で初めて展示されます。「甘露の雨」と「黄砂」のシリーズから合わせて4点出品予定です。
 「甘露の雨」はもともと、等高線で切り出したベニヤ板を積層して張り合わせ、角を削り落として滑らかな曲線を得る、という西村独自の方法によって制作されてきました。また「黄砂」はこれまで、古代メソポタミアから伝わる形成技法であるパート・ド・ヴェールを用いたガラスによって制作されてきました。ブロンズに鋳造された「甘露の雨」はドイツで発表されていますが、ブロンズによる「黄砂」は世界でも初めての発表となります。
 ブロンズという伝統的な素材を得て、西村の作品はその永遠性を確固たるものにしたようです。



出品作品

1.
甘露の雨 B-12, 2008
ブロンズ, ed. 1/2
20.5 x 39.5 x 32.5 cm

2.
甘露の雨 B-13, 2008
ブロンズ, ed. 1/2
22.0 x 58.0 x 36.0 cm

3.
億劫, 2008
蓮の葉, 和紙
63.0 x 30.0 cm
4.
甘露の雨 WS B-1, 2008
ブロンズ, ed. 1/2
46.0 x 7.5 x 10.0 cm

5.
黄砂 B-1, 2008
ブロンズ, ed. 1/2
28.0 x 21.0 x 21.0 cm