中川佳宣「農夫の壺」


2001年9月8日-10月20日 タグチファインアート





























 中川佳宣は1964年大阪生まれで現在滋賀県在住。1989年の第五回吉原治良美術コンクール展でのコンクール賞を皮切りとして、1996年の第1回昭和シェル石油現代美術賞展における最優秀賞など、これまで数々の賞を受賞しています。


植物と人間との関わりをモチーフ

 中川は大阪芸術大学卒業の年、1987年におこなった個展以来、一貫して植物や植物と人間との関わり、すなわち農耕や栽培といった人間の根源的な営みをモチーフに作品を制作してきました。その様々な素材を自在に操る職人的な手技や、作品の素朴な佇まいから漂う豊かな詩情により、多くの人を惹きつけています。


農夫の壺

 今回の展示の中心となる作品は「農夫の壺」です。中川は1995年頃より「農夫の壺」と題した一連の作品を発表してきました。このシリーズにおいては、例えば「イネ科」や「マメ科」など、植物の或る特定の科がとりあげられ、その科のなかで世界中で人間が栽培している種類の数と同じ数だけのドローイングが描かれます。これらのドローイングは、壺とドットを蝋燭の煤で描いた独特のもので、それぞれには個々の植物の種類が割り当てられます。場合によっては、これらのドローイングに素焼きの壺が組み合わされて作品が成立することもあります。



アーティストブック

 この「農夫の壺」シリーズの作品を提示するにあたり、中川はこれまで、ドローイングを額装して壁面に平面的に展開して展示してきました。今回は新しい試みとして、この作品を書物という形式で構成し、アーティストブックとして出版致します。作品からは植物事典のイメージも連想されますが、書物にしたことで、できあがった作品には厚みや奥行きが生まれ、また一枚一枚めくって観ることから生じる時間性が取り込まれることになりました。



バラ科

 今回の「農夫の壺」の出版にあたり中川が採りあげた科は「バラ科」です。世界中で栽培されているバラ科の植物の種類は、リンゴやスモモ、イチゴやマルメロをはじめとして全部で22種類あります。したがって、制作されたドローイングの点数は22点。それぞれの学名をラテン語、英語、日本語で示した頁が付随します。イメージ部分は総てオリジナルのドローイング、テキスト部分は今や貴重な活版工房のひとつ、嘉瑞工房で印刷されます。函はクロス張りで、装丁家の大平立子さんによる制作です。発行部数は、限定10部+AP2部。加えて、作家自身の装丁によるデラックスエディションも1部発行を予定しております。出版はタグチファインアート。エディションはありますが、オリジナルドローイングによって構成されているため、壺のフォルムは共通するものの、1部1部すべて異なったものになっています。




出品作品

1. 農夫の壷-ヒルガオ科, 1996,
大理石・皮・ガラス・木/ 煤・アクリル・トレーシング紙

2. 農夫の壷-バラ科(特装版), 2001,
テラコッタ・皮・蜜鑞・石膏・種・煤・アクリル・トレーシング紙

3. segment(sack)#3, 2001,
綿・羊毛・アクリル・木・蜜鑞・糸・竹

4. light pot, 1993, 再生紙・アクリル・彩色・金属粉・蜜鑞・糸

5. 農夫の壷-バラ科, 2001,
22点の素描(煤・アクリル・トレーシング紙)
限定10部+A.P.2部

6. 農夫の壷, 1993, テラコッタ・皮・蜜鑞・木・石

7. light pot-blue,1997-2001,
再生紙・綿・アクリル・彩色・皮・蜜鑞・金属粉・糸

8. 農夫の壷-向日葵,1994, テラコッタ・皮・蜜鑞・鉄・石