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フランク・ゲアリッツ 「トランジット」


2016年9月3日-10月8日 タグチファインアート








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 タグチファインアートでは、フランク・ゲアリッツ作品の展示を、上記の期間約5週間にわたって行います。

 フランク・ゲアリッツは1964年ハンブルク近郊、バート・オルデスロー生まれ。現在ハンブルクを拠点に、ヨーロッパとアメリカで定期的に作品を発表しています。その作品はヴェサーブルク美術館(ブレーメン)、ハーグ市立美術館、ポントワーズ美術館、パンザ・コレクション(ヴァレーゼ)、ナショナル・ギャラリー(ワシントンDC)、ブルックリン美術館(ニューヨーク)、メニル・コレクション(ヒューストン)等、多くの美術館、個人コレクションに収蔵されています。

 ゲアリッツが、抽象的・幾何学的な言語によって作品を制作している今日の作家のなかで、最も重要な作家のひとりであることは疑いありません。彼の作品はミニマリズムやコンセプチュアルアートの道を遡るものに見えるかもしれませんが、ゲアリッツの作品において重要なのはむしろ、個々人の知覚の生き生きとした部分に関わる性質です。彼の作品は表面的な見かけよりも実に深淵であり、美術史の議論に対しても常に多様な引用と見解との複雑な織を提供しています。


彫刻家として出発

 ゲアリッツは彫刻家としてそのキャリアを開始していますが、長い期間にわたり、自らの彫刻的な思考を、主にドローングという形式において発展させてきました。それはドローイングでありながらもレリーフ的な性格を強く備え、彫刻同様、周囲の空間にエネルギーを強く発散させます。彼はこれまでに、初期の彫刻インスタレーションをもとに、二つの主要なシリーズ作品を生み出しました。一つはMDFパネルに描く鉛筆のドローイングであり、もう一つはアノダイズ処理されたアルミ板の上にペイントスティックで描くドローイングです。


鉛筆によるMDFのドローイング

 ファベール社のカステル9Bという鉛筆で、ゲアリッツは工業的に生産されたMDFパネルの平滑な表面の上に、小さなストロークのハッチングによって黒鉛の層を何層も重ねていきます。垂直と水平という異なった方向のハッチングが作品の基本構造となります。この幾何学的構造の正確さが、黒鉛という素材がもつ効果によって、知覚上でまったく異なるレベルに変換されます。表面に積み重ねられた黒鉛は、予期せぬ様相で光を捉え、本来は暗闇であるはずの黒い平面が部分的に鏡のように光を反射し、鑑賞者自身の姿や周囲を映し出します。私たち鑑賞者の眼差しは、作品表面で光に満ちた世界を旅することになります。


ペイントスティックによるアルミのドローイング

 もう一方のシリーズで、ゲアリッツは自らの指示通り慎重に製作され、アノダイズ処理されたアルミ板の上に、黒いペイントスティックをぶ厚く(約 5 mm)塗り重ねていきます。実際の作品を正面から見たとき、私たちは表面の透徹した黒色の美と、塗り残された部分のアルミ素材の工業的な美、また作品の厳正な精度に魅了されます。そしてMDFのドローイング同様、光を孕んだり反射したり、私たちが生きている実際の空間と複雑に反響するのを体験することができます。
 これら二つの言うなれば「壁の彫刻」とは別に、ゲアリッツのこれまでの20年間の仕事には、紙に鉛筆で描くドローイングのシリーズ、著名な美術作品の図版の上にペイントスティックを塗る(案内状とオークション)シリーズ、そして壁に直接鉛筆でドローイングする、モニュメンタルなウォール・ドローイングがあります。どの作品も総て等しく、限られた幾何学的な語彙によって構築されています。


紙のドローイング

 最初彼は人間の頭部などを石彫で制作していましたが、人間の身体各部の寸法(頭の大きさ、肩幅、歩幅など)を基準として、鉄を鋳造して作ったブロックを組み合わせた、抽象度の高い彫刻作品へと移行しました。それらのインスタレーションにおいて、ブロックの底の面、床と接して見ることのできない面を鉛筆でドローイングすることが、彼のドローイングの出発点です。彼がセンターと呼び、現在も基本単位としている直方体は、彼のドローイングでは長方形や正方形として描かれています。塗り重ねられた鉛筆の線は厚く集積し、まるで鉛の板がレリーフとしてそこに存在しているかのように見える作品です。


案内状/オークション

 「案内状とオークション」のシリーズは、彼の元に送られてくる展覧会の案内状やオークションカタログの頁の一部を黒いペイントスティックで塗りつぶした作品です。アルミニウムの作品から派生したシリーズで、ペイントスティックのストロークや刷毛痕、構図が共通しています。世界的に著名な作家たちの作品図版に手を加えることで、ユーモラスでウィットに富んだ作品を生み出しています。いっぽうで、オークションに頻繁に出品されるような作品はお金と密接に結びついているため、現代美術とコマーシャリズム、マネーの関係を扱うシニカルな作品でもあります。2010年にはブレーメンのヴェーザーブルク現代美術館で、このシリーズのみで個展が開催されています。


トランジット

 今回の個展タイトル「トランジット」は、今年1月にマドリードのフアナ・デ・アイスプル画廊におけるポーランドの彫刻家ミロスワフ・バウカの個展「トランジット」の案内状をもとに制作された作品からとられています。「TRANSIT」の文字だけが残され他の部分はペイントスティックで黒く塗りつぶされた「案内状とオークション」シリーズの作品です。
  "transit"という言葉には様々な意味があり、多くの連想を呼び起こします。一般的には輸送・移動・通過を意味しますが、航空機の経由地、乗り継ぎを表わす言葉として馴染みがあるかもしれません。今日のグローバル社会では、日常的に大量の人々や物資が国境を越えて行き来しています。難民の移動は大きな社会問題になっています。一箇所に留まることなく常に移動の状態にあるのが現代の私たちです。作家や作品も例外ではありません。「トランジット」は現代社会の一面を表わす言葉であると言えるでしょう。
 また、案内状/オークションの作品でゲアリッツは、他の作家の作品図版に手を加えることで元の作品に別の意味を与え、新しい作品へと作り変えています。文脈を移動させることによって新しい意味や価値を創造する行為は、美術だけでなく現代芸術において特徴的なことの一つです。


 昨年の個展ではMDFボードに鉛筆のストロークを重ねたドローイング3点を中心に、紙に鉛筆で同様に描いたドローイング5点を併せて展示致しまた。タグチファインアートで3度目の個展となる今回は、アルミニウムの作品4点と案内状/オークションの作品を数点展示いたします。春のアートフェア東京では、ゲアリッツ作品のプレゼンテーションはフェアのハイライトのひとつになり、多くの美術愛好家やコレクターに強い印象を残しました。ぜひご高覧下さい。


初日9月3日(土)17時より19時まで、この機に来日する作家を囲み、ささやかなレセプションを行います。お誘い合わせのうえぜひお運び下さい。



出品作品

1.
トランジット, 2016
ペイントスティック・印刷物
21 x 15.5 cm

2.
ステディ・アズ・イット・カムズ, 2014
ペイントスティック・アルミニウム
60 x 60 cm

3.
トゥー・センター・スプリット・スクリーン I, 2016
ペイントスティック・アルミニウム
各60 x 60 cm(2点組)

4.
ナイト・ドライブ(ストレート・スルー), 2016
ペイントスティック・アルミニウム
60 x 60 cm

5.
ブライト・ライト (スリー・センターズ), 2016
ペイントスティック・アルミニウム
60 x 60 cm

6.
ライン, 2012
ペイントスティック・印刷物
各29.5 x 23 cm (2点組)