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キム・テクサン「淡」


2023年11月2日 - 12月16日 タグチファインアート






































キム・テクサン(金澤相)は1958年韓国ソウル市生まれ。1985年に中央大学美術学部を卒業し、1987年に弘益大学大学院美術研究科修士課程を修了。現在はソウル近郊一山市在住。「Empty Fullness」展 (2014) をはじめとして、韓国抽象絵画を紹介する海外巡回展には欠かせない存在となっています。近年ではアメリカやドイツでも展示するなど、精力的に活動しています。


モノクローム絵画の伝統

 韓国では1970年代から活発化した“Dansaekhwa”と呼ばれるモノクローム絵画運動が、現代美術における主流のひとつとして、重要な潮流を形成しています。独自の発展をとげてきたこの韓国の抽象芸術は近年、日本の「具体」や「もの派」とともに、国際的に大きな注目を集めています。
 1990年代に作品の発表を開始した世代には欧米での留学経験をもつ作家も多く、モノクローム絵画も素材や技法において多様な展開を示しています。キム・テクサンは留学経験こそありませんが、こうした同世代の作家との交流を通し、韓国人作家としてのアイデンティティーを探るとともに自らの思想を深め、作品のオリジナリティーを確立すべく模索してきました。今日では “Dansaekwha” 第二世代の中心的な存在となっています。


自然の痕跡

 キム・テクサンはその制作において、筆もペインティング・ナイフもパレットも使いません。彼はまず、特別に用意した長方形のプールにキャンバスを浸し、アクリル絵の具を溶かした水を注ぎます。注がれた水はその痕跡をキャンバスに残しながらゆっくり蒸発していきます。季節や気候に応じて、水は様々に異なる模様を残します。この制作過程において、作家はただひたすら待つのみです。適当な時期を見はからって排水し、キャンバスを乾かします。この工程を何度も繰り返し、キャンバスに色の層を幾重にも重ねていきます。


時間の絵画

 こうして制作されるキム・テクサンの作品は水の痕跡そのものであり、樹木の年輪と同様、時間の痕跡でもあります。彼がなすべきことは、時の流れが痕跡というかたちで自らを現わす環境を整えることに尽きます。


自然の色彩と光の表現

 キム・テクサンが扱う色彩は、自然界に存在する現象から選ばれています。夕日の赤色、水や空の青色、樹木の緑色、太陽の黄色などです。それらの色彩を何層にも重ねることで、それぞれの層に複雑に反射する光が独特の色彩を生み出します。まるで皮膚を透かして血管や内部の組織の色が浮き上がってくることで生まれる人間の肌の色のようです。
 長い時間をかけて制作されるキム・テクサンの作品は、時間を経ることで得られる成熟や熟成という感覚や観念を見る人に与えるような色彩、柔らかで優しい色彩に覆われています。



 タグチファインアートにおける今回の展示は、彼の日本での5年振り7度目の個展となります。プールに浸す際に不規則な形状にした布を下敷きにすることでキャンバスに表情を与えたり、オーロラや甲虫のもつ蛍光色が新たな自然の色彩として取り入れたりするなど、近年彼の作品には以前にも増して幅が出てきています。この機会にキム・テクサンの最新作をぜひご高覧下さい。



出品作品

1.
Aurora 23-4, 2023, 125.5 x 125.5 cm

2.
Breathing Light-Red in Red 23-6, 2023
85.0 x 85.0 cm

3.
Somewhere over the Rainbow 23-15, 2023
53.5 x 51.0 cm

4.
Raisonance 23-17, 2023, 129.0 x 129.0 cm

5.
Breathing Light-Deep Purple 23-10, 2012
75.0 x 76.0 cm

6.
Aurora-N8, 2022, 75.5 x 77.0 cm

7.
Aurora-23-N1, 2023, 77.5 x 74.5 cm

8.
Dim Memories 23-9, 2023, 58.0 x 43.5 cm

9.
Somewhere over the Rainbow 23-11, 2023
31.5 x 31.5 cm

材質は総て水・アクリル・キャンバス