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New Positions 2016


日本の抽象絵画: 岩名泰岳・樫永創・田中秀和

2016年7月2日-8月6日 タグチファインアート












































タグチファインアートではこのたび、New Positionsと題した新たな展覧会シリーズを企画致しました。これは次代を担う日本の若手作家を採りあげるシリーズで、正式な取扱い作家としてプログラムには登場していないものの、タグチファインアートが注目している作家をご紹介する初めての試みです。

1回目の今回は、抽象的な言語によって絵画制作に取り組む3人の画家、岩名泰岳、樫永創、田中秀和を採りあげます。

 岩名泰岳(いわなやすたけ)は1987年三重県生まれ。2010年に成安造形大学造形学部造形美術科洋画クラス卒業。在学中にアートアワードトーキョーで準グランプリを受賞。卒業後2012年までドイツに滞在し、研究生としてデュッセルドルフ美術アカデミーで学びました。現在は故郷である三重県伊賀市島ヶ原を拠点に活動。最近では、ギャラリーほそかわ(大阪)やMA2ギャラリー(東京)等で個展を開催。昨年は三重県立美術館でのグループ展「三重の新世代」にも参加しています。
 彼は2013年に結成した島ヶ原村民芸術「蜜の木」の代表を務め、都会の発想から生まれたアートを地方に移植するいわゆる「アートで村興し」的なものとは一線を画した、地元の歴史や風土、文化に深く根ざした活動を展開しています。その活動のなかから生み出される作品は、故郷の自然や村の信仰をモチーフとし、多くの場合具象的な題材から出発してはいるものの、その抽象度は高くとても洗練されたものとなっています。

「これは私の絵に描かれている一部かも知れませんが、大切なのは土(ローカルな土地)を掘り続ける作業、その深い穴から水が湧いて、その水面に万遍の星空を映し出そうとする意志です。」(岩名泰岳)


 樫永創(かしながはじめ)は1985年大阪府生まれ。2004年に大阪府立桜塚高等学校を卒業。美大に進学することに意義を見出せず独学で美術史や絵画を学び、2011年に2kwギャラリー58(大阪)で初個展。2012年からは毎年Oギャラリー eyes(大阪)で個展を開催し、現在も大阪を拠点に活動しています。
 彼は初個展以来、抽象表現主義に参照を求められるような、モダニズムを踏まえたオーソドックスでペインタリーな作品を発表してきました。混沌とした自己の内面世界を見つめ、画面と対峙するなかで、それを抽象的空間として感覚的に描き出すことにのみリアリティーや事物の本質を見つけ出すことができる、と考える樫永にとって、描くという行為は自らの存在証明とも言えます。
 最近の作品には、暗褐色に沈み、全体が茫漠としたイリュージョンに満ちたそれまでの画面から、原色の明るい色彩が用いられ、直線によって分断された複数の断片による空間構成へという、はっきりとした変化が見られます。

「思い浮かんだ色、痕跡をキャンバス上に残す。それを直線により構成し、整理していく…その繰り返しの上に、色彩や絵の具の痕跡が、いかにそれ以上の力を持って、自分に影響してくるか。今はそれに興味がある。」(樫永創)


 田中秀和(たなかひでかず)は1979年兵庫県生まれ。2000年に京都芸術短期大学ビジュアルデザインコースを卒業、京都造形大学情報デザイン学科に編入。在学中の1999年にギャラリーココ(京都)で初個展。2001年にロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン、ファウンデーションコース、ペインティングクラスに留学。2006、2008、2009、2010、2012年には児玉画廊(京都・東京)で個展を開催。現在は京都市立芸術大学博士課程に在学中で、京都を拠点に活動しています。
 彼はこれまで一貫して、複合的な手法を駆使しながら抽象絵画を問い直す実験を続けてきました。それは例えば、衝動的なストロークや偶然生まれた形態を複写してそれを整形して画面を再構成したり、かつて自分が描いた作品の断片をプロジェクターで投影し、それに反復や回転という操作を加えて新たな作品を生み出すという手法。あるいは、絵の具の乾いていないキャンバスの面を合わせてイメージを転写させたり、投げつけてできた絵の具の塊をある規則に従って移動させたりした後、それらをもとに連想される色彩や形態を描き加えるという手法などです。
 音楽分野でのサンプリングや、フォトショップなどの画像加工ソフトにおけるレイヤーの概念、そうした極めて今日的な方法論を絵画に援用し、彼は無意識と意識、時間などの問題を扱い、即興的でリズミカルな、そして大変美しい作品を生み出しています。

「イメージを作品間でループ/シェアするという一見創造性の放棄とも取られかねないこの手法は、意識と無意識の問題や、『抽象』的なものを描く行為自体のオリジナリティについて、作品と自身の関係性など、『抽象』という概念に対するさまざまな命題を投げかけるものだと考えます。」(田中秀和)


 同じ関西をベースとして抽象絵画に取り組む3人ですが、その方法論はまったく異なります。彼らの仕事が、これからの日本の絵画を豊かなものにしてくれるに違いありません。この機会にぜひご高覧ください。

なお、初日7月2日(土)午後18:00より20:00まで3人の作家を囲み、ささやかなレセプションを行います。皆様のお越しを心からお待ち致しております。

協力:MA2 Gallery (岩名泰岳)



出品作品

岩名泰岳

1. みんなの墓, 2016年
 油彩・キャンバス
 41 x 31.8 cm

2. ケモノミチ, 2016年
 油彩・キャンバス
 53 x 45.5 cm

3. 観音山, 2015年
 油彩・キャンバス
 72.7 x 60.6 cm

4. 蜜ノ木, 2016年
 油彩・キャンバス
 130.3 x 97.0 cm


樫永創

1. 無題, 2016年
 アクリル・キャンバス
 162 x 130 cm

2. 無題, 2016年
 アクリル・キャンバス
 80.5 x 100 cm

3. 無題, 2016年
 アクリル・キャンバス
 38 x 45.5 cm


田中秀和

1. Reversal Edge, 2016年
 油彩・キャンバス
 116.7 x 91 cm

2. Strings Negative, 2016年
 油彩・キャンバス
 60.6 x 50 cm

3. Strings Positive, 2016年
 油彩・キャンバス
 60.6 x 50 cm

4. Feedback #3, 2016年
 油彩・キャンバス
 53 x 45.5 cm

5. Feedback #4, 2016年
 油彩・キャンバス
 53 x 45.5 cm

6. Repetition #4, 2016年
 油彩・キャンバス
 41 x 31.8 cm