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New Positions 2021


日本の抽象絵画: 田中秀和・西川茂・平野泰子

2021年1月16日-2月20日 タグチファインアート


























タグチファインアートでは次代を担う日本の若手作家を採りあげるシリーズの第2回目として、田中秀和、西川茂、平野泰子の作品を展示致します。

 田中秀和(たなかひでかず)は1979年兵庫県生まれ。2000年に京都芸術短期大学ビジュアルデザインコースを卒業、在学中の1999年にギャラリーココ(京都)で初個展。京都造形大学情報デザイン学科に編入後、2001年にロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン、ファウンデーションコース、ペインティングクラスに留学。帰国後、京都、東京のギャラリーにて発表を続け、2018年に京都市立芸術大学後期博士課程油画領域満期退学。現在は京都を拠点に活動しています。
 彼はこれまで一貫して、複合的な手法を駆使しながら抽象絵画を問い直す実験を続けてきました。それは例えば、衝動的なストロークや偶然生まれた形態を複写してそれを整形して画面を再構成したり、かつて自分が描いた作品の断片をプロジェクターで投影し、それに反復や回転という操作を加えて新たな作品を生み出すという手法。あるいは、絵の具の乾いていないキャンバスの面を合わせてイメージを転写させたり、投げつけてできた絵の具の塊をある規則に従って移動させたりした後、それらをもとに連想される色彩や形態を描き加えるという手法などです。
 音楽分野でのサンプリングや、フォトショップなどの画像加工ソフトにおけるレイヤーの概念、そうした極めて今日的な方法論を絵画に援用し、彼は無意識と意識、時間などの問題を扱い、即興的でリズミカルな、そして大変美しい作品を生み出しています。

「イメージや物質を作品間でループ/シェアするという一見創造性の放棄とも取られかねないこの手法は、意識と無意識の問題や、絵画空間に対する時間、さらには絵画の再編集性ついて、作品と物質、作家自身と鑑賞者の関係性から、『抽象』という概念に対するさまざまな命題を投げかけるものだと考えます。」(田中秀和)


 西川茂(にしかわしげる)は1977年岐阜県生まれ。1997年に近畿大学理工学部土木工学科環境デザインコースを中退、2002年大阪芸術大学附属大阪美術専門学校芸術研究科絵画コース修了。2007年から1年間アメリカに滞在し、ニューヨーク州にある障がい者と健常者の共同生活体トライフォーム・キャンプヒル・コミュニティにて絵画コースでアシスタントをしました。これまでに奈良、京都、東京で個展を開催、現在は奈良市を拠点に活動しています。
 西川は、都市に突然出現する布状のシートに覆われた、建設中、改築中、あるいは解体中の建築物や構造物を題材に、抽象的表現を試みてきました。それら「シールド・ハウス」シリーズの作品は、写実性、再現性から離れ大胆な筆触で描かれていますが、それは万物の流動性や、生成と消滅というテーマに相応しい手法といえるでしょう。
 彼はこのシリーズを始めた当初から、梱包芸術家として知られるクリスト&ジャンヌ=クロードの活動に自作との共通性を意識してきました。先頃クリストが他界したことを契機に、彼らへのオマージュとなる新しいシリーズを今回制作しました。

「それは新しい建物の始まりであり、かつてそこにあった建物の終わりでもある。そして建物を覆うシートは、過去の忘却と新たな記憶を隔てる薄い膜のような存在なのかもしれない。人々がこれから何を捨て、何を忘れ、何を見て、何を求めていくのか。描かれた仮囲いのその向こうには、変わりゆく風景の移ろい、世情の変容があり、今が更新され未来が続いていく。クリスト&ジャンヌ=クロードは実際の建物を覆い隠す事により、逆にその建物自体の存在感や歴史的背景を浮き彫りにしてきた。一方私は建造物が覆われた状態を、変容するランドスケープや移ろう環境の『動態』と捉え、絵に落とし込む事によりそれらを顕在化させようとしている。共鳴する部分があると同時に、彼らとの違いも少なからずあると感じている。彼らの作品のオマージュを制作する事により、『シールド・ハウス』シリーズを見つめ直し、更に推し進める機会となればと考えている。」(西川茂)


 平野泰子(ひらのやすこ)は1985年富山県生まれ。2007年京都精華大学芸術学部造形学科(洋画専攻)卒業。2009年に愛知県岡崎市のマサヨシ・スズキ・ギャラリーで初個展を開催し、2015年にはVOCA展に出品。京都や東京で発表を重ね、現在は神奈川県川崎市を拠点に活動しています。
 平野は大学在学中から、絵の具を幾重にも薄く塗り重ねた色面抽象絵画を制作してきました。彼女は自身の仕事について、見慣れた風景や過去の記憶、経験を、描くという行為によってキャンバスの上で客観化し、それらが自律性を獲得するまで展開させ、現在の現実と接続させようとする試みとして考えています。描き進めるなかで絵画空間から発せられる、意味や言語から切り離された論理的思考に拠らない「呼びかけ」や、時に丸い黒点として現れる「眼差し」に反応し、そこに自分とは違う新たな視座を見出そうとする彼女の探究が、今回発表される新作にも反映されています。

「普段何気ない景色、風景、対象を見ることで、その対象に一体感を感じたり直感のようなものに触れたりする。それは風のように突然やってきて、見つめた自分が見つめ返される。記憶の回帰、尊さを抱きながら、言語や意味を遠ざけつつ、その出来事に強度を持たせるために作品を制作している。」(平野泰子)


 彼らの仕事は、これからの日本の絵画を豊かなものにしてくれると確信します。ぜひご高覧ください。

なお、初日1月16日(土)午後17:00より19:00まで3人の作家を囲み、ささやかなレセプションを行います。皆様のお越しを心からお待ち致しております。

協力:Gallery OUT of PLACE (西川茂)