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岩名泰岳 「みんなでこわしたもの」


2021年3月6日-4月24日 タグチファインアート








































 岩名泰岳(いわなやすたけ)は1987年三重県生まれ。2010年に成安造形大学造形学部造形美術科洋画クラス卒業。卒業後すぐにアートアワードトーキョーで準グランプリを受賞。2016年には第1回三重テレビ大賞、2020年には三重県文化賞文化新人賞を受賞しています。卒業後2012年までドイツに滞在し、研究生としてデュッセルドルフ美術アカデミーで学びました。現在は故郷である三重県伊賀市島ヶ原を拠点に活動。大阪や東京のギャラリーで個展を重ね、「三重の新世代」展 (2015年 三重県立美術館) や「青森EARTH 2019: いのち耕す場所」展 (2019年 青森県立美術館)、「ステイミュージアム」展(2020年 三重県立美術館)など、美術館での展示の機会も増えています。

 彼は2013年に結成された島ヶ原村民芸術「蜜ノ木」の初代代表を務め、都会の発想から生まれたアートを地方に移植するいわゆる「アートによる地域興し」的なものとは一線を画し、衰退していく集落に残って地元の歴史や風土、文化に深く根ざしながら、それぞれの分野で現実と戦っていく若者たちの創造的な行為自体をアートとして発信してきました。
 こうした「蜜ノ木」の活動は近年、アートコレクティブやローカリズムの事例として近年特に注目されていますが、そのなかで生み出される岩名の作品は、故郷の自然や村の信仰をモチーフとし、多くの場合具象的な題材から出発してはいるものの、その抽象度は高くとても洗練されたものとなっています。

 岩名は、昨年春からの新型コロナウィルスによる移動の自粛要請のもとで、地元の野山を彷徨い、打ち捨てられた廃屋や文字の消えかかった墓石に、忘却や死について思索に耽ったと言います。タグチファインアートで3回目の個展となる本展では、作家が、過剰な移動がもたらした災禍について、過疎地から世界を想いながら描いた新作を展示致します。


世界中で疫病が蔓延してどこにも行けなくなった一年、自分の暮らす集落を幽霊のように歩きはじめた。つい最近までそこにあった朽ちた家は数日の間に潰されて、灰色の砂利を敷いた更地に変わっていた。ここで暮らしていた人を知っていた気がするけれど、今ではもう思い出せない。森のお堂の近くでは苔むした丸い石や顔が砕けた野仏に出会った。それらはここで生きていただれかの名前や家族の記憶を刻んでいたはずだが、過疎の歳月は雨と風と機械によってそのしるしを削っていった。これらの残された光景についての絵を記すことにした。

(岩名泰岳)



協力:MA2 Gallery




出品作品



1. いきのこり, 2021, 油彩・キャンバス, 100.0 x 80.3 cm

2. 農民の墓, 2020, 油彩・キャンバス, 45.5 x 38.0 cm

3. きせき, 2021, 油彩・キャンバス, 72.7 x 60.6 cm

4. 去っていく者たち, 2020, 油彩・キャンバス, 41.0 x 31.8 cm

5. 双子、双子, 2020, 油彩・キャンバス, 53.0 x 45.5 cm

6. わかち, 2021, 油彩・キャンバス, 65.2 x 53.0 cm

7. みすて, 2021, 油彩・キャンバス, 130.3 x 97.0 cm

8. 鉱山, 2020, 油彩・キャンバス, 60.6 x 45.5 cm

9. ハナレバナレ, 2021, 油彩・キャンバス, 53.0 x 45.5 cm

10. ゆめ, 2020, 油彩・キャンバス, 72.7 x 53.0 cm

11. だれかの名前, 2020, 油彩・キャンバス, 72.7 x 60.6 cm

12. よわいあらし, 2020, 油彩・キャンバス, 53.0 x 45.5 cm

13. いえのあと, 2021, 油彩・キャンバス, 72.7 x 60.6 cm

14. 思い出, 2020, 油彩・キャンバス, 45.5 x 38.0 cm

15. 岸辺のしるし, 2020, 油彩・キャンバス, 53.0 x 45.5 cm

16. めぐり, 2020, 油彩・キャンバス, 53.0 x 45.5 cm