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岩名泰岳 「けものたちのくに」2025年3月22日-4月26日 タグチファインアート |
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タグチファインアートでは上記の期間約5週間にわたり岩名泰岳の作品展示をおこないます。 岩名泰岳(いわなやすたけ)は1987年三重県生まれ。2010年に成安造形大学造形学部造形美術科洋画クラス卒業。卒業後すぐにアートアワードトーキョーで準グランプリを受賞。2016年には第1回三重テレビ大賞、2020年には三重県文化賞文化新人賞を受賞しています。卒業後2012年までドイツに滞在し、研究生としてデュッセルドルフ美術アカデミーで学びました。現在は故郷である三重県伊賀市島ヶ原を拠点に活動。大阪や東京のギャラリーで個展を重ね、「三重の新世代」展 (2015年 三重県立美術館) や「青森EARTH 2019: いのち耕す場所」展 (2019年 青森県立美術館)、「ステイミュージアム」展(2020年 三重県立美術館、作品も収蔵)など、美術館での展覧会にも出品しています。 彼は2013年に結成された島ヶ原村民芸術「蜜ノ木」の初代代表を務め、都会の発想から生まれたアートを地方に移植するいわゆる「アートによる地域興し」的なものとは一線を画し、衰退していく集落に残って地元の歴史や風土、文化に深く根ざしながら、それぞれの分野で現実と戦っていく若者たちの創造的な行為自体をアートとして発信してきました。 こうした「蜜ノ木」の活動は近年、アートコレクティブやローカリズムの事例として近年特に注目されていますが、そのなかで生み出される岩名の作品は、故郷の自然や村の信仰をモチーフとし、多くの場合具象的な題材から出発してはいるものの、その抽象度は高くとても洗練されたものとなっています。 タグチファインアートで5回目の個展となる本展は、2年前の個展の以降に描き溜めた作品のなかから、石仏をモチーフとした作品と、戦争報道で目にする機会が増えた硝煙やキノコ雲と身近なキノコやカビといった菌類とを重ね合わせた作品を中心に展示いたします。是非ご高覧ください。 なお、3月22日(土)午後17:00より19:00まで作家を囲み、ささやかなレセプションを行います。皆様のお越しを心からお待ち致しております。 アーティスト・ステイトメント 1. ふたつの神がかり 1892年(明治25年)、京都丹波で紙屑拾いをしていた出口なおは、ある日 "神がかり"を起こした。文盲だったというなおは "お筆先" と呼ばれる自動筆記によって膨大な神の言葉を綴った。 「今日は獣類の世、強いもの勝ちの、悪魔ばかりの世」 急速な近代化に取り残されながらも生き延びてきた田舎の老婆は当時流行していたインフルエンサー(新宗教の教祖)の仲間入りを果たした。 1929年(昭和4年)、新潟佐渡に生まれた北輝次郎は妻すず子と法華経を唱えるようになった。すず子もまた "神がかり" を起こした。 輝次郎は妻を通して告げられる神霊の言葉や夢の景色を熱心に日記に綴った。 この頃、日本は震災を経てからの恐慌によって困窮を極め、農村では娘たちの身売りが相次いだ。"世直し" を唱えた輝次郎はインフルエンサー(社会運動家)のひとりとなった。 彼に心酔した一部の青年たちが選んだのは政治家や財界人を襲撃するという方法だった。 2. 芥(あくた) 2019年、新型コロナウイルスによる感染症が世界中に広がった。 人々はウイルスと社会の監視から身を守るためにマスクを着けるようになり、その顔がより見えなくなった。 ニュースでは日々の感染者がカウントされ、田舎ではだれが感染したのか、他所者を見つけた、という噂や疑心が静かに錯綜を繰り返した。 わたしはほとんどの時間を故郷の村で過ごし、いつもより人気のない集落を歩いて数十枚の絵を描いた。それから、その一枚に「けものたちのくに」と名付けた。 2024年、世界は長年追い求めてきた理想に反して既存の体制への不満とインフルエンサーたちがばら撒く無数の情報によって混迷を深め、あらゆる土地で緊張が高まった。 わたしは村はずれの肥料工場(産廃処理施設)でごみ拾いの職を得た。 毎日、都会からやってくる大量の食品ごみを有機肥料に作り変える工場だった。わたしは土埃で覆われた壁に絵を描きはじめた。日が暮れると、汚れたままの姿でアトリエに帰り、また絵を描くことをつづけた。 2025年 寒波の後、春の兆し 岩名泰岳 |