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中川佳宣「表面主義」


2017年8月26日 - 9月22日 タグチファインアート












































中川佳宣は1964年大阪府生まれで現在滋賀県在住。大阪芸術大学を卒業した1987年の初個展以来、一貫して植物と人間との関わり、すなわち農耕や栽培、農業といった人間の根源的な営みや、植物の構造をモチーフに作品制作をしています。彼は芸術家と作品との関係を農夫と植物との関係によく似たものとして捉えています。農夫が大地に種を蒔くようにキャンバスに絵の具を置き、農夫が畑を耕すように素材に形を与えます。中川の作品は様々な素材を自在に操る職人的な手技や、作品の素朴な佇まいから漂う豊かな詩情により、これまでつねに多くの人々を惹きつけ、東京国立近代美術館や和歌山県立近代美術館をはじめとする国公立美術館や、昭和シェル石油など数多くの企業に収蔵されています。


平面と立体との間を絶えず行き来しながら制作を続ける中川は最近、表面主義という考えを提唱しています。


表面主義

我々はすべてのものを表面を介してでしか認識していないのではないだろうか。そのことを確認するために制作を続けていると言っても過言ではない。

我々がものを認識するということの重要な条件に視覚がある。我々は世界の様々なものの表面をただぼんやりと、あるいは食い入るように見つめているに過ぎないのである。
にも関わらず我々はものを見ることで、ただものを見ること以上の情報をすでに記憶の中に蓄積しているのである。

日々の暮らしの中で視覚による情報はそのものの質感や味覚をも認識し想像できるまでに発達している。その背景に膨大な視覚以外の経験の積み重ねがあることを忘れてはいけない。生まれてすぐの子どもは世界のすべてを触知することで認識するのである。手に取り口でしゃぶり、それがどんな質感なのか、味なのか、ということを体験し幼い魂に覚えこませるのである。だから画像や映像といった間接的なものを通しても我々はそれらの素材の触知的な感覚や温度、湿度までも見ることで感じ取ることができるのである。
それはやはりものの表層としての表面を視覚や記憶、経験を通じて再認識しているのである。

それでは芸術における表面とは何かという問いがここにある。

芸術を理解しようとするときふたつの選択がそこにある。ひとつは伝統的な手法の中で繰り返し試みられた方法を基軸に自分の表現として向き合うということ、もうひとつは今までに経験したこと以外の新たなものの見え方や在り方を求めたいと願う中で自分の表現として押し出すことである。そのことを踏まえて芸術の各分野を考えることにする。

全ての彫刻は表面である。また、全ての彫刻は表面でしかない。まぎれもない事実である。

全ての写真は表面である。写真の表面とは印画紙の質そのものであり、写り込んだ内容や像は意味を持たない。私にとっての写真とは印画紙の表面そのものである。(デジタルの画像をプリンターで出力したものはここで言う写真とはまったく違う別物である)

映画も含む映像作品は再現するものや場所でその都度形を変えるのでわかりづらいが、映画館のスクリーンやモニターの画面は表面でしかない。

演劇や音楽は別な問題なのでここでは特に触れない。

では絵画はどうであろうか?
これがとてつもなく難解なのである。
絵具の塗られた画布は表面的であるが、写真の印画紙のような均一的な質で覆われているわけではない。そして具象絵画においてはそこに何かの別次元のイメージを内包しており、このために平面であっても表面としては捉えにくいのである。

ここに表面主義という新たな絵画・造形の地平を提言する。それはあくまでも個人的ではあるがモンドリアンが唱えた「新造形主義」を受けての新たな試みでもある。

表面主義的な絵画とは画面の質が均一であり、必要最小限の新造形主義的な構成(垂直と水平)の痕跡がある程度で、あとは従来のイメージやイリュージョン、大胆な構成までも排した平面性の強い抽象絵画に準ずる。 ただ、表面主義とは表面を手がかりにそのものの構造やその閉ざされた内部への好奇心を助長させるものでなくてはならない。
つまり平面的な作品であってもタブローとしての支持体の裏側の存在を感じさせるものでなくてはならないのである。
従来の絵画やオーソドックスな彫刻であればそのものの裏側や中味を問うことはありえないが、表面主義的な平面においては常にそのものの構造や内側の存在までもが重要となりうる。それは美術作品という枠を超えたところで我々の生活に密着し様々な形で存在しているからである。
我々は様々なものを経験を通して、その構造や内側の存在を知った上で生活(衣食住)しているのである。芸術もそうあるべきなのだ。

中川佳宣



今回、レリーフ作品数点とミルフィーユ状に何枚も積層したドローイング数点を展示致します。実際には表面しか見ることはできませんが、中川が趣向を凝らして丹念に仕事した作品内部の構造や裏側を想像してご覧頂ければ幸いです。

本展はタグチファインアートでの中川の10度目の個展となります。




出品作品


1.
コンビネーション・ペインティング - グレー, クリーム, 2017年
木製パネル、綿布、アクリル、糸、熱
100 x 64.5 x 12.5 cm

2.
層 #004, 2017年
キャンバスに油彩, 石膏, アクリル, 綿布, 蜜鑞
12.8 x 9.8 x 4.5 cm

3.
層 #007, 2017年
キャンバスに油彩, 石膏, アクリル, 綿布, 蜜鑞
12.8 x 9.8 x 4.5 cm

4.
層 #003, 2017年
キャンバスに油彩, 石膏, アクリル, 綿布, 蜜鑞
12.8 x 9.8 x 4.5 cm

5.
層 #005, 2017年
キャンバスに油彩, 石膏, アクリル, 綿布, 蜜鑞
12.8 x 9.8 x 4.5 cm

6.
層 #008, 2017年
キャンバスに油彩, 石膏, アクリル, 綿布, 蜜鑞
12.8 x 9.8 x 4.5 cm

7.
層 #009, 2017年
キャンバスに油彩, 石膏, アクリル, 綿布, 蜜鑞
12.8 x 9.8 x 4.5 cm

8.
コンビネーション・ペインティング - ピンクローズ, 2017年
木製パネル, 綿布, レーヨン, アクリル, 顔料, 糸, 熱
100 x 64.5 x 12.5 cm

9.
コンビネーション・ペインティング - 白, 2017年
木製パネル, 綿布, レーヨン, アクリル, 糸, 熱
100 x 64.5 x 12.5 cm

10.
層 #002, 2017年
キャンバスに油彩, 石膏, アクリル, 綿布, 蜜鑞
12.8 x 9.8 x 4.5 cm

11.
コンビネーション・ペインティング - 緑青, 2017年
木製パネル, 綿布, レーヨン, アクリル, 顔料, 金属粉, 油彩, 糸, 熱
100 x 64.5 x 12.5 cm