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中川佳宣「光の壷」


2020年1月18日 - 3月14日 タグチファインアート
































中川佳宣は1964年大阪府生まれで現在滋賀県在住。大阪芸術大学を卒業した1987年の初個展以来、一貫して植物と人間との関わり、すなわち農耕や栽培、農業といった人間の根源的な営みや、植物の構造をモチーフに作品制作をしています。彼は芸術家と作品との関係を農夫と植物との関係によく似たもの、アナロジーとして捉えています。農夫が大地に種を蒔くようにキャンバスに絵の具を置き、農夫が畑を耕すように素材に形を与えます。中川の作品は様々な素材を自在に操る職人的な手技や、作品の素朴な佇まいから漂う豊かな詩情により、これまでつねに多くの人々を惹きつけ、東京国立近代美術館や和歌山県立近代美術館をはじめとする国公立美術館や、昭和シェル石油など数多くの企業に収蔵されています。


今回は光を地下茎にまで送り込む、蓮の構造をモチーフにした中川の代表的な彫刻作品「光の壺」の新作を中心に、「光の根」と合わせて展示致します。


ふたつの光

制作における平面に対する行為であったり立体物の形であったりを私はこれまで農耕を含めた人の営みのなかに求めて来た。数世代前の近代化される前の農業の所作のなかに様々な芸術との近似を見つけ出し表現に結びつけて来たのだが、その根源に「光」の存在を抜きには語れない。文字通り、農耕と光は切っても切れない関係であり今さらここで説明する必要もあるまい。

長年にわたり光を認知する装置としての筒状のオブジェを作って来た。「光の壺」と題したそれは筒の上に穴の空いた蓋があり底はない。空間の少し高い位置に設置することで鑑賞者はその真下から筒を見上げることが出来る具合になっている。上から見ればただの穴なのであるが、下から見上げれば筒を通して光を感じることとなる。「光の壺」に底がないのは光を認知した鑑賞者の身体が壺の底になるといった趣旨である。以前は筒を4つに区切って4つの穴を持たせていた。それは植物から受けたイメージを形にしたものであったが、今回は穴を2つにし、人の器官に寄り添う形を試みる。

もう一つの光は「光の根」である。以前このような文章を展示の際に記したことがある。

「光の根」とは、作品の制作・発表のために作りあげた造語であるが、単なる作り手の妄想から生まれただけの言葉ではなく、瞑想の世界、あるいは仏教の世界において広く知られた言葉のようである。熟達した瞑想においては基本的な瞑想のあと自分の足に意識を置き、そこから地球の核に向かって光の根が張るというようなイメージをするようである。また仏教においては、光の根とは我々の中に存在するひとつの願いであるという。その願いの上に見出すことの出来た光を経では法蔵と説いているのである。

本来なら地中深く伸び続ける植物の根は光を見ることは決してない。「光の根」とは言語化された思考の世界において、より本質的(感覚的)に世界を知ろうとする触手なのかも知れない。

視覚化することの出来ない光を造形物に落とし込むこと、このことは芸術に出来る大切なことであると思っている。言い換えると芸術だから成り立つことなのかも知れない。もちろん個人の生み出したイメージでしかないのだが、これが可視化した光であると思っている。ふたつの光をひとつの空間に解き放つ。そこに何が見えるのか楽しみである。

中川佳宣



本展は中川のタグチファインアートでの11度目の個展となります。



出品作品


1.
無題(光の根)#2, 2019-20年
綿布、アクリル、顔料、蜜鑞、牛革、糸、木
167 x 8 x 8 cm

2.
無題(光の根茎)#1 #004, 2019-20年
綿布、アクリル、顔料、蜜鑞、牛革、糸、木
23.5 x 367 x 15 cm

3.
光の壷 #1(赤), 2019-20年
綿布、アクリル、顔料、蜜鑞、牛革、糸、再生紙
43 x 23.5 x 420 cm

4.
光の壷 #3(黄), 2019-20年
綿布、アクリル、顔料、蜜鑞、牛革、糸、再生紙
43 x 23.5 x 420 cm

5.
光の壷 #4(緑), 2019-20年
綿布、アクリル、顔料、蜜鑞、牛革、糸、再生紙
43 x 23.5 x 420 cm

6.
無題(光の根)#1, 2019年
綿布、アクリル、顔料、蜜鑞、牛革、糸、木
179 x 13 x 11.5 cm

7.
光の壷 #2(赤), 2019-20年
綿布、アクリル、顔料、蜜鑞、牛革、糸、再生紙
43 x 23.5 x 420 cm