japanese | english |
中川佳宣「種の視点・農夫の目ー卓上の発芽」2024年7月6日 - 8月10日 タグチファインアート |
|
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
中川佳宣は1964年大阪府生まれで現在滋賀県在住。大阪芸術大学を卒業した1987年の初個展以来、一貫して植物と人間との関わり、すなわち農耕や栽培、農業といった人間の根源的な営みや、植物の構造をモチーフに作品制作をしています。彼は芸術家と作品との関係を農夫と植物との関係によく似たもの、アナロジーとして捉えています。農夫が大地に種を蒔くようにキャンバスに絵の具を置き、農夫が畑を耕すように素材に形を与えます。中川の作品は様々な素材を自在に操る職人的な手技や、作品の素朴な佇まいから漂う豊かな詩情により、これまでつねに多くの人々を惹きつけ、東京国立近代美術館や和歌山県立近代美術館をはじめとする国公立美術館や、昭和シェル石油など数多くの企業に収蔵されています。 今回の個展のタイトルを決めるにあたり、中川は30年ぶりに「種の視点、農夫の目 (views of seeds, eyes of farmers)」という自身の制作の原点・基準となっている言葉を選びました。 「種の視点」とは、非力であるがチャンスがあれば発芽しようと準備を怠らない種子のことであり、進化の過程で綿毛を付け、あるいは羽を持ち風に乗り遠くに飛んで行けたり、人の衣服や動物の毛に付着して移動したり、鳥などに食べられることで子孫を繋いで来たのである。そのしたたかな戦略家をコントロールして来た技が「農夫の目」なのである。農夫の目は常に変化する季節や天候を読むためのセンサーでもあり、人間の都合に合わせて交配を繰り返し、良い品種を作り続けて来たのである。 agriculture という言葉を頭の片隅に置いて制作するようになったのは大学の2回生の頃のように思う。80年代の終わり、イメージの復権、新表現主義の時代の中で、自分を成立させているものは何か、自分の表現の核になるものは何かと迷っていた時に、ジャクソン・ポロックのドキュメンタリービデオを観たことで、次元の違う2つの世界を結びつけることを思いついた。 農業を生業として私の父の家系は大阪の南東部の河内平野で暮らして来ており(私の父は末っ子だったので大学に行かせてもらい教師の道を選んだが)そんな伯父の仕事ぶりが大好きで付いて回る幼年期であった。 伯父の家は私の自宅の近くで農業を営んでいた。伯父は桜の花が咲き終わると畑を耕作し田植えの準備を初めていた。水田の脇に苗代と呼ばれている小さな水田を作り、種籾を蒔いて行くその姿はドキュメンタリーで観たポロックのドリッピングと呼ばれる技法により、寝かせた状態のキャンバスに絵の具を垂らし混んで行く姿と重なったのだ。 苗代の周りを歩きながら種籾を蒔く伯父はポロックという画家の存在をおそらくは知らない。ポロックもまた自分の行為とよく似た行為を日本の農夫がしてたことを知らなかったと思えば、この両者を知る私はそれを結びつけることで「自分を成立させているもの」が何であるかに気づき、表現出来るのではないだろうかと思いついたのである agricultureとは、農業を示すagri という言葉に、文化の意味を持つculture という言葉でで出来ている。cultureという言葉には「耕作」するという意味も含まれており、そのことでも私の興味を刺激するものであった。agriculture とart を結び付けるなど他人にとってはどうでも良い話ではあるが、私は素材を耕しながら制作して来ていることは事実である。 自分の学生時代に実習で描いた課題の油絵や他人が捨てた使い古しのキャンバスをイメージが無くなるまで削り、洗って、磨き、そこに最小限の絵の具を乗せて自分の表現として来た。 人からよく「あなたの作品には平面のものと立体のものがあるが、なぜですか?」聞かれる。 強いて言えば「種を蒔く」などの行為を意識すると空間の中で立体物として立ち上がる。それに対して「蒔かれた種」の存在を考えると畑あるいは苗代の中に「蒔かれた」という結果としてしか言いようがなく、私にとっては平面のあるいは平面的な作品は全て結果なのだと思っている。 今回、「2つの畝(two ridges)」というタイトルの同じ形態のものが上下で合わさったレリーフの立体物は畑の畝を耕す行為の中から生まれたもので、鍬を畝に振るって手前に引く時の土が見せる形状から来ている。真ん中に出来た溝に肥料や腐葉土を入れた後、埋め直し、綺麗に整えてられて次の種蒔きの時を待つのである。 この労働の鍬の動きが見せる土の一瞬の形を永遠のものにしたくて生まれたもので、2008年に一度制作したこともある形である。今回、改めてこの労働の見せる軌跡をモチーフにレリーフ状の作品を作ろうと思った動機は、上下の関係をより明確な(色であったり、テクスチャーであったり)ものにして空間の中に提示してみたいと思ったからである。 中川佳宣 本展は中川のタグチファインアートでの4年ぶり12度目の個展となります。あたかもキャンバスの上に種が蒔かれ耕されたかのような平面作品と、耕すという農夫の行為をモチーフとしたレリーフ状の立体作品を展示致します。 出品作品 1. 2つの畝(白+赤), 2023年 再生紙、綿布、油彩、アクリル、蜜鑞、牛革、糸 107.0 x 75.0 x 21.0cm 2. 卓上の発芽 240005, 2024年 油彩、キャンバス、熱、石膏、綿、蜜鑞 24.6 x 33.7 x 5.2 cm 3. 卓上の発芽 240009, 2024年 油彩、キャンバス、熱、石膏、綿、蜜鑞 24.6 x 33.7 x 5.2 cm 4. 卓上の発芽 240003, 2024年 油彩、キャンバス、熱、石膏、綿、蜜鑞 24.6 x 33.7 x 5.2 cm 5. 卓上の発芽 240004, 2024年 油彩、キャンバス、熱、石膏、綿、蜜鑞 24.6 x 33.7 x 5.2 cm 6. ハンギング #240001, 2024年 アクリル、テラコッタ、銀箔、綿布、牛革、 糸、ブロンズ 120.0 x 21.0 x 15.0 cm 7. 層 240011, 2024年 油彩、キャンバス、熱、石膏、綿、蜜鑞 13.0 x 10.0 x 5.0 cm 8. 層 240015, 2024年 油彩、キャンバス、熱、石膏、綿、蜜鑞 13.0 x 10.0 x 5.0 cm 9. 層 240012, 2024年 油彩、キャンバス、熱、石膏、綿、蜜鑞 13.0 x 10.0 x 5.0 cm 10. 層 240013, 2024年 油彩、キャンバス、熱、石膏、綿、蜜鑞 13.0 x 10.0 x 5.0 cm 11. 層 240014, 2024年 油彩、キャンバス、熱、石膏、綿、蜜鑞 13.0 x 10.0 x 5.0 cm 12. 無題(絵画), 2023年 綿布、アクリル、油彩、再生紙 49.0 x 62.5 cm 13. 2つの畝(黄+白), 2023年 再生紙、綿布、油彩、アクリル、蜜鑞、牛革、糸 107.0 x 75.0 x 21.0cm 14. 無題(表面)#2, 2021年 アクリル、トレーシング紙、蜜鑞、パネル 49.0 x 62.5 cm 15. 卓上の種子 240001, 2024年 油彩、キャンバス、煤、アクリル、トレーシング紙 49.0 x 62.5 cm 16. 卓上の種子 240002, 2024年 油彩、キャンバス、煤、アクリル、トレーシング紙 49.0 x 62.5 cm |